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AKO_0263

3月25日

ここ数日、街を自転車で走っていると、卒業式帰りらしき親子の姿をよく目にする。

子供たちの顔はみんな晴れやかで、瞳はきらきらと輝いている。眩しすぎて、サングラスが必要なくらいだ。

親友の娘も、数日前に小学校を卒業した。

彼女の娘は目元に不思議な美しさをたたえていて、ちょっと人見知りで、でもときどき強烈に面白いセリフを口にし、そしてものすごく本が好きな女の子だ。ひとつの図書館で借りてきた本だけで、なんと年間50冊!

恩田陸さんの本とかを普通に読んでいて、ユージニアとか夜読むとやばいよね、なんてことをさらっと言う。小六のくせにカッコよすぎなんだよ、笑。

僕が初めて一冊の本を最後のページまで読み終えたのは、高校1年生のときだった。
読了初体験は、夏休みの課題図書に指定された夏目漱石の「坊ちゃん」。面白かったけれど、結局そのあと大学に進学するまで、その「坊ちゃん」以外に本なんか読まなかった。

彼女が好きな恩田陸さんの本は僕も何冊か読んでいる。でもそれは数年前、恩田さんが『オール讀物』に連載を始めることになり、その挿絵に自分の写真が使われることになってから、あわてて読んだだけだ。


卒業式の帰り、子供のそばでほっとしたような表情を浮かべている礼服姿のお母さんの姿を眺めていると、大学時代に仲良しだった4歳年下の女の子のことを思い出した。

当時僕は四ッ谷三丁目近くに住んでいて、彼女は僕がよく通っていたカフェレストランで働く女性の娘さんだった。キュートで、性格もかわいくて、びっくりするほど脚が長かった。おっぱいのすぐ下から生えてるんじゃないか、と思うくらい長く、そして美しい脚だった。

大学4年生のとき彼女のお母さんから頼まれて、しばらくの間英語を教えてあげたことがある。週に一度、彼女は僕の住んでいた六畳一間の下宿に、謝礼代わりのお弁当を持ってやってきた。いくら払えばいい?ご飯食べさせてくれればそれでいいです。

熱い夏の夕暮れには、おへそが見えるくらい短い丈のTシャツに、デニムのミニスカート姿で、彼女は部屋にやってきた。
僕は目のやり場に困りながら、一時間かそこら英語を教えることに集中したが、もちろん集中できなかった。
ときどき彼女の美しい脚が僕のすねにあたると、脱水症状になるかと思うくらい全身から汗が出た。

先週の宿題やってきた?ぜーんぜん、やってない!

毎週そんな感じだった。でも、可愛くて、グラマーで、脚の長い女の子が無邪気に笑うと、まったく腹が立たなかった。腹が立たないどころか、とても幸せな気分になった。

数カ月後、彼女は志望していた美術大学に合格した。

英語の成績はたぶんそんなによくなかったはずだ。彼女は最後の最後まで、僕の授業には真剣につき合わなかったから。きっとその英語を補ってあまりあるくらい、実技の点数が高かったに違いない。

今になってわかることだけれど、彼女はただ単にキュートで脚が長いだけでなく、ものすごく大きな芸術の才能を持ち合わせていた。一流の美術大学が、そんな女の子を合格させないわけがない。あるいは、試験官係の助教授が彼女に惚れたか。

大学を卒業後、僕は南米へと旅立ち、彼女がその後どんなふうに美しい女性へと変わってゆくのかを見る機会を失った。きっと彼女は今でも、相変わらずキュートで、脚がものすごく長くて、アーモンドのような美しい瞳を持ち、とても嬉しそうに笑う、魅力的な女性のままのような気がする。

まったく、なんであのとき、おれとつきあってくんないかな、とか言えなかったんだろう。いやいや、言えるわけがなかったし。

まあ、いいか。

慣れ親しんだ人や風景にさよならを言って、より高いところへと歩んでゆく。
3月の終わりは、いつもそんな季節だ。

卒業、ほんとにおめでとう。